子どもとデジタル絵本

「子どもとデジタル絵本」研究会

2012年度第1回 BEAT公開研究会「子どもとデジタル絵本」をUstreamで聴講しました.詳しいセミナーレポートは後ほど公開されると思いますが,感想等をメモ.

デジタル化の波は幼児教育にも押し寄せていて,iPadやKindle等のデジタルデバイスを用いた,新しい教育手法に関する研究が続々と報告されています.この研究会のテーマは,デジタル絵本を用いた幼児の学習です.絵本を用いた読み聞かせの効果については,様々な側面から研究されてきており,ナラティブ/ストーリーテリングの分野では,幼児が自ら物語を構成し,語ることの学習効果が検討されています.ここに,デジタルがやってきて,デジタルストーリーテリングが研究されるようになってきたわけです.

私はこの分野に詳しいわけではないので,とても勉強になりました.特に絵本の”余白”という考えに,改めて気付かされたことが収穫でした.

  • 絵本は,学習者自らの物語構成を促すために,敢えて”言葉足らず”に作られている(”余白”が多い).そのため,リッチ(すぎる)コンテンツを提供するデジタル絵本は,逆に子どもの想像/創造力の発達を阻害してしまうのではないという危惧が持たれる.
  • デジタル絵本では音や動きを可視化された形で追加することが出来る.この点にデジタルであることの良さがあるのではないか.”適当”な素材を与えることで,学習者が創る物語の幅が広がるのではないか.

一方で,一般の親のレベルでは,デジタル絵本とどう向き合ったら良いのかが伝わっていないことがよく分かりました.以下は,会場から出た質問です.

  • デジタル機器に子どもが夢中になり,いわゆる中毒的な利用に陥ってしまうのではないか?
  • 親子の会話が減ってしまうのではないか?

デジタルであろうとなかろうと,ストーリーテリングには聞き手が必要で,それを親の代わりにデジタル機器が果たすことはこの先もないでしょう.つまり,”余白をきちんと持つ”という絵本としての原則が守られてさえいれば親子の会話が減るということはなく,むしろ物語は大きく膨らみ,会話はより多く,深くなるはずですね.

この”余白”の考え方は,ヴィゴツキーの最近接発達理論(Zone of Proximal Development : ZPD)や社会的構成主義の理論に合致するのですが,ZPDや社会的構成主義を理解してはいても,身近な絵本にそのエッセンスが詰まっていたことに気づいていなかったんだ,ということに改めて気づかされました.

リッチコンテンツの利点と弊害

ちょうど同じタイミングで,アメリカの Joan Ganz Cooney Center から,Print Books vs. E-books と題されたレポートが発表されました.

QuickReport: Print Books vs. E-books https://joanganzcooneycenter.org/Reports-35.html

紙,紙のデジタル版e-book(静的e-book?),インタラクティブe-book(動的e-book?)の3種類について,親子の共読がどのように変化するのかを調べた研究です.様々な観点からメディアの違いによる効果が比較されていますが,速報として分かったことは以下のとおりです.

  • 動的e-bookによる共読では,内容に関係のない会話やアクションが増加した.
  • 動的e-bookを用いた場合には,内容の事後再生率が低下した.
  • 静的e-bookよりも動的e-bookのほうが,子どもの関わりが大きかったが,最も子どもの関わりが大きかったのは紙の本だった.
  • 親子の関わり,親と本の関わりも含めた全体の関わり度合いを比較すると,紙>静的e-book>動的e-bookの順に大きかった.

上記をまとめると,動的e-bookは子どもの注意を引きやすいが,同時に共読活動から注意を逸らしてしまっているということになります.この実験で用いられた素材がどのようなものであったかは,具体的には明らかにされていません.しかし,先の”余白”の話と考え合わせると,動的e-bookが良い結果を残さなかった理由として,以下の2点が考えられます.

  • この実験で用いられた動的e-bookが”余白”をうまく用いていない可能性
  • 親が子どもをうまく導けなかった可能性

デジタル絵本をうまく使えるかどうかは,上記の2点にかかっているのかもしれません.