ふるさと納税で国税と地方税の制度の違いにより想定通りに控除を受けられないケースがあることについて

 ふるさと納税制度においては、控除上限額を超えない限りにおいて、寄附金額から 2,000円 を除いた全額が税金から控除されるとされています。

(参考)ふるさと納税のしくみ > … > 税金の控除について
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/deduction.html

 ふるさと納税は控除を受けるのに確定申告や何らかの申請が必要な場合があったり、実際に控除されたかの確認が難しかったりと、なかなかスマートな制度とは言い難いところがありますが、それは多分、基本的な税制に大きな変更を加えずに実現可能な方法にせざるを得なかったからだと思っています。

 しかしそれゆえ、ふるさと納税の利用者には全く不備がないのに、想定通りに控除がなされない場合があります。実際の所得税の税率と地方税における所得税率の算出方法が異なっているために、住民税での控除額が控除想定額に届かず、その分が控除されずに自腹になるというケースです。このケースが厄介なのは、上にも書いたようにふるさと納税の利用者には全く不備がないこと、また、自分がそのケースに当てはまるかどうかは年末にならないとわからない(=ふるさと納税の利用時には予想しづらい)ことが多いということです。

 以下、実際に起こりうる例で説明します。


 会社員のAさんは夫婦共働きで子どもはなく、他の扶養家族もいません。また、住宅ローンは払っていません。Aさんは会社員なので所得は給与で得ており、ある年の年収が 1,300万円 だったとします。

 さて、総務省のふるさと納税ポータルサイトの「税金の控除について」のページによると、給与収入の年収 1,300万円 で夫婦共働き(配偶者控除を受けていない)場合には、およそ 326,000円 がふるさと納税の上限額と記載されています。そこで、Aさんはふるさと納税制度を利用して 28万円 を寄付したとします。状況をまとめると以下のとおりです。

年収 ふるさと納税寄付額 所得税における課税所得金額
1300万円 28万円 892.2万円
Aさんの年収とふるさと納税額、課税所得金額

 このとき、課税所得は以下の 6,950,000円 から 8,999,000円 までに当てはまりますので、所得税の税率は23%となります。

課税される所得金額 税率
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23%
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33%
所得税の税率(抜粋):国税庁ウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)より

 ふるさと納税制度において、所得税からの控除は(ふるさと納税額 − 2,000円)×「所得税の税率」となりますので、(280,000 – 2,000)× 0.23 × 1.021 = 65,283円 となります(注:1.021をかけているのは、令和19年まで復興特別所得税が課せられているからです)。

 一方で、自治体から送られてきた住民税の税額決定通知書を確認したところ、税額控除額が 184,333円 となっていました。所得税からの控除分と合わせると 249,616円 となり、控除想定額の 278,000円 には、約28,000円 ほどが不足し、控除しきれていませんでした(つまりは、 約28,000円 分を自腹で負担したことになってしまいました)。


 金額は上記の例とは異なりますが、実際に私も上記と同じケースに遭遇しました。そこで、所轄自治体の税務課に確認しましたが、担当者もふるさと納税控除分が想定通りに控除されていないことを認めながらも、なぜ計算が合わないのかがわからず、最後まで納得のいく説明ができませんでした。最終的には、分からないので総務省に確認してくれ、と投げる始末です。総務省に確認するとしても窓口がどこだかよく分かりませんし、納税者一人ひとりが直接総務省に確認するのもあまり良いこととは思えないので、まずは自力で調べてみることとしました。

 もう一度Aさんの例に戻って説明すると、Aさんの住民税の税額決定通知書には、課税所得金額が 915万円 と記載されていました。所得税の計算では、課税所得金額が 892.2万円 だったはずですが、住民税の計算とは異なっています。この違いはどこから生まれたのでしょうか?

 所得税の課税所得金額の算出の際には、寄附金控除が考慮されるため、ふるさと納税で寄付をした 28万円 のうち、 2000円 を差し引いた 278,000円 が控除対象に含められ、課税所得金額が 892.2万円 になっていました。一方で、住民税の課税所得金額の算出の際には、寄附金控除が考慮されません。地方税法第三百十四条の二(所得控除)、ならびに、第三百十四条の六(調整控除)には 1 例では市町村民税の条文を扱っていますが、道府県民税でも内容は同じです 、課税所得金額から控除される項目が並んでいますが、寄附金控除は含まれていません。

つまり、所得税の税率を決定する課税対象額にはふるさと納税による寄附金控除後の金額が用いられるのに対し、地方税における課税所得金額ではふるさと納税による寄附金控除を考慮しない金額で所得税の税率が算出される、ということです。

 そのため、Aさんの住民税における課税所得金額は所得税の課税所得金額よりも多い、 915万円 となっていたのです。このように異なる課税所得金額が算出された経緯をまとめると、以下のとおりになります。

  • Aさんの課税所得金額の算出において、寄付金控除以外の控除がすべて考慮された場合の金額が 920万円 であった。
  • 所得税の計算においては、その 920万円 からふるさと納税分の 27.8万円 が寄付金控除として引かれ、課税所得金額は 892.2万円 になった。このときの所得税の税率は 23%。
  • 住民税の計算においては、 920万円 から調整控除の基礎控除 5万円 が引かれ、課税所得金額は 915万円 になった。このときの所得税の税率は 33%(ややこしいですが、住民税の計算に用いられる所得税率で、実際に課せられた所得税率とは異なります)。

 上記のように、住民税の寄付金控除額の算出において用いられる所得税の税率が実際の所得税率の 23% とは異なる 33% が使用されているために控除額が10%分減ってしまっており、結果として想定よりも 10% 分少ない額しか控除されていません。 2 住民税からのふるさと納税の控除は、次の2段階でおこなわれます。まず、基本分として、 (ふるさと納税額-2,000円)× 10% を差し引く。Aさんの例では、278,000円 × 10% = 27,800円 がこの時点で差し引かれます。次に、特例分として、(ふるさと納税額 – 2,000円)×(100% – 10%(基本分) – 所得税の税率 × 1.021) が差し引かれます。Aさんの例では、278,000円 ×(100% – 10% – 33% × 1.021)= 278,000円 × 56.307% = 156,533円 がこの時点で差し引かれます。結果として、基本分と特例分をあわせた、184,333円 が差し引かれます。なお、住民税からの控除には上限がありますが、このとき住民税の所得割額は 915万円 で、特例分の控除上限である、 915万円 × 10% (所得割の税率) × 0.2 = 18.3 よりも控除額が低いため、全額が控除されます。

 このAさんの例のように、所得税と住民税で課税所得金額が異なり、さらにその課税所得金額が税率の境目付近にある場合には、所得税と住民税で税率も異なるということが起こり、結果として、ふるさと納税が控除しきれなくなってしまいます。この現象が起こる条件をまとめると、以下のようになるでしょうか。

  • ふるさと納税をおこなった場合の所得税の課税所得金額が、税率が変わる境目より少し下にあり、ふるさと納税をする場合としない場合で税率が変わる。
  • 住民税の控除項目に該当するものがない、または少なくて、住民税の算出に用いられる課税所得金額が所得税のそれより高く、実際の所得税率より高い税率で寄付金控除額が計算される。(住民税と所得税では控除方式が異なるため、寄付金控除の有無で課税所得金額が異なっても、結果的に同じ税率に落ち着く場合もあります)

 ここまでで、ふるさと納税が想定どおりに控除されないカラクリは分かりました。さて、ふるさと納税の利用者は上記のような条件に当てはまってしまう可能性を事前に察知でき、避けることが可能でしょうか?

 自分の収入が確実に計算でき、想定外の控除(例えば医療費控除など)が発生しない場合には、可能かもしれません。しかしそもそも、今回のケースのようにふるさと納税を利用したときに、想定どおりに税金が控除されないケースが存在することすら、一般の人は知らないのではないでしょうか。個人的には、ふるさと納税による税金の控除額の確認も簡単ではないため、想定通りに控除されていないことにすら、気づいていない人も多数いるように想像します。

 一方で、総務省は、このような状況が発生しうることを予め把握しているようにも見えます。なぜなら、総務省のふるさと納税ポータルサイトの「税金の控除について」のページの「住民税からの控除(特例分)」の箇所には、下記のような記述があるからです。

(3) 住民税からの控除(特例分) = (ふるさと納税額 – 2,000円)×(100% – 10%(基本分) – 所得税の税率)

上記(3)における所得税の税率は、個人住民税の課税所得金額から人的控除差調整額を差し引いた金額により求めた所得税の税率であり、上記(1)の所得税の税率と異なる場合があります。

総務省のふるさと納税ポータルサイトの「税金の控除について」より

 所得税と住民税で計算に用いる税率が異なれば、想定通りに控除されないことが起こりうるのは、税制の専門家であれば想定しやすいはずです。しかし、一般の利用者に対し、今回のケースのような不利益が起こりうることには全く触れていません。

 所得が税率が変わる境目付近にあるという理由だけで、何の落ち度もないのに適切な控除がなされないというのは、なんだか腑に落ちませんし、理不尽です。制度設計上、どうしても今回のようなケースが生じるのを避けられないというのであれば、少なくとも、課税所得金額が税率の境目付近にある場合に、全額控除されない場合がある旨を周知すべきではないかと思います。制度に穴があるのを知っているのに、それを知らせずに利点のみをPRし続ける、という態度は不誠実だと思うのは、私だけでしょうか。 3 なお、ふるさと納税制度の改善要望として、本記事の内容を総務省の行政相談に提出しました。総務省からは以下のような回答が届きました。

 今回、ふるさと納税額において、実際の所得税の税率と地方税における所得税率の算出方法が異なるため控除額が想定と異なっていたことから、適切な控除がなされるように何らかの対処、全額控除されない場合がある旨の周知をするなどの対策を検討することのご意見をいただきました。
 ご相談内容、ご意見については、当該制度を所管している総務省自治税務局市町村税課に連絡いたしました。

  • 1
    例では市町村民税の条文を扱っていますが、道府県民税でも内容は同じです
  • 2
    住民税からのふるさと納税の控除は、次の2段階でおこなわれます。まず、基本分として、 (ふるさと納税額-2,000円)× 10% を差し引く。Aさんの例では、278,000円 × 10% = 27,800円 がこの時点で差し引かれます。次に、特例分として、(ふるさと納税額 – 2,000円)×(100% – 10%(基本分) – 所得税の税率 × 1.021) が差し引かれます。Aさんの例では、278,000円 ×(100% – 10% – 33% × 1.021)= 278,000円 × 56.307% = 156,533円 がこの時点で差し引かれます。結果として、基本分と特例分をあわせた、184,333円 が差し引かれます。なお、住民税からの控除には上限がありますが、このとき住民税の所得割額は 915万円 で、特例分の控除上限である、 915万円 × 10% (所得割の税率) × 0.2 = 18.3 よりも控除額が低いため、全額が控除されます。
  • 3
    なお、ふるさと納税制度の改善要望として、本記事の内容を総務省の行政相談に提出しました。総務省からは以下のような回答が届きました。

     今回、ふるさと納税額において、実際の所得税の税率と地方税における所得税率の算出方法が異なるため控除額が想定と異なっていたことから、適切な控除がなされるように何らかの対処、全額控除されない場合がある旨の周知をするなどの対策を検討することのご意見をいただきました。
     ご相談内容、ご意見については、当該制度を所管している総務省自治税務局市町村税課に連絡いたしました。